東京地方裁判所 平成10年(ワ)21507号 判決 2000年6月29日
原告
ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピー・エー
右代表者
【A】
原告
株式会ウエスタン・アームス
右代表者代表取締役
【B】
右両名訴訟代理人弁護士
北新居良雄
同
中島敏
同
牧野利秋
被告
有限会社マルゼン
右代表者代表取締役
【C】
被告
有限会社丸前商店
右代表者代表取締役
【C】
右両名訴訟代理人弁護士
安原正之
同
佐藤治隆
右両名補佐人弁理士
【D】
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一原告らの請求
一 被告らは、玩具銃並びにそのパッケージ、広告、カタログ及び取扱説明書に、別紙「被告表示目録」一ないし五記載の表示を付してはならない。
二 被告らは、別紙「被告表示目録」一ないし五記載の表示を付した玩具銃並びにそのパッケージ、広告、カタログ及び取扱説明書を譲渡し、引き渡してはならない。
三 被告らは、別紙「被告表示目録」一ないし五記載の表示を付した玩具銃並びにそのパッケージ、広告、カタログ及び取扱説明書、並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
四 被告らは、各自、原告ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピー・エーに対し、五二九二万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告らは、各自、原告株式会ウエスタン・アームスに対し、八八二万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告らが被告に対し、別紙「原告表示目録」一ないし五記載の各表示(以下、これらの各表示を、それぞれその番号に従い「原告表示一」などといい、合わせて「原告各表示」と総称する。)がいわゆる周知商品等表示に該当し、被告らが不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為を行っていると主張して、玩具銃やそのパッケージ等に別紙「被告表示目録」一ないし五記載の各表示(以下、これらの各表示を、それぞれその番号に従い「被告表示一」などといい、合わせて「被告各表示」と総称する。)を付すことの差止め及び損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1(一) 原告ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピー・エー(以下「原告ベレッタ」という。)は、イタリア共和国ブレシア市に本拠を置く銃器メーカーであり、その製造・販売に係る実銃(以下「原告実銃」という。)には、原告表示一ないし四が付されているものがある。
(二) 原告株式会社ウエスタン・アームス(以下「原告ウエスタンアームス」という。)は、玩具銃の製造・販売業者である。
(三) 被告有限会社マルゼン(以下「被告マルゼン」という。)は、玩具銃の製造・販売業者であり、その製造に係る玩具銃(以下「被告玩具銃」という。)をすべて被告有限会社丸前商店(以下「被告丸前商店」という。)に売り渡している。
被告丸前商店は、被告玩具銃を被告マルゼンから買い受けて、国内で販売している。
2 被告らは、平成二年一二月ころから、少なくとも被告表示二を付した「ベレッタM93R」という商品名の玩具銃(ガス式エアガン。以下「被告商品」という。)を製造又は販売し、また、そのパッケージ、広告、商品カタログ及び取扱説明書(以下、これらを総称して、「パッケージ等」という。)に少なくとも被告表示一及び五を付して、これらを譲渡し、引き渡していた(なお、被告らが被告商品に被告表示五を、そのパッケージ等に被告表示二ないし四をそれぞれ付していたかどうか、現在も被告商品の販売等をしているかどうかについては、争いがある。また、被告らは、被告商品の取扱説明書に付した被告表示一及び五については、「MARUZEN BERETTA M93R」と連記したものの一部である旨を主張する。)。
3 原告表示一は被告表示一と、原告表示二は被告表示二と、原告表示三は被告表示三と、原告表示四は被告表示四と、原告表示五は被告表示五と、それぞれ同一の表示である。
二 争点
1 原告ベレッタとの関係における不正競争の成否
平成二年一二月ころ以降、被告商品に被告表示二及び五を、そのパッケージ等に被告各表示をそれぞれ付す行為、並びに右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為が、いずれも不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当するかどうか(なお、原告らは、右各行為が同法二条一項二号所定の不正競争行為に該当する旨の主張はしない。)。
殊に、(1)原告各表示が我が国において遅くとも昭和五七年ころまでには原告ベレッタの商品等表示として需要者の間で広く認識されているものとなっていたかどうか。(2)被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たるかどうか。(3)被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものであるかどうか。
2 原告ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否
殊に、原告ウエスタンアームスが、原告ベレッタと共に原告各表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているグループを構成する者に当たり、被告各表示を被告商品に付する等の行為が、原告ウエスタンアームスとの関係においても不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当するかどうか。
3 原告らの差止請求権の有無
殊に、被告らは現在、被告商品に被告表示二及び五を付してこれを販売し、そのパッケージ等に被告各表示を付してこれらを譲渡し、引き渡しているかどうか。被告らは、玩具銃及びそのパッケージ等について被告各表示を付し、これを譲渡し、引き渡すことについて、現在行っている以外にもこれを行うおそれがあるかどうか。原告らは、被告らが玩具銃及びそのパッケージ等に被告各表示を付すことによって、営業上の利益を現に侵害され、又は将来侵害されるおそれがあるかどうか。
4 原告らの損害賠償請求権の有無及び原告らが請求し得る損害額
5 権利濫用の成否
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告ベレッタとの関係における不正競争の成否)について
(原告ベレッタの主張)
(一) 原告各表示は、以下に詳述するとおり、我が国において、遅くとも昭和五七年(一九八二年)ころまでには、いずれも原告ベレッタの商品であることを表示するもの(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものとなり、現在に至っている。
(1) 原告ベレッタは、世界で最も古く、かつ、最も著名な銃器メーカーであり、その武器製造の歴史は一五世紀後半にさかのぼる。狩猟用銃、高級ライフル、護身用ピストルなどの小型銃器を民間向けに製造・販売し、二〇世紀初頭には政府調達用銃器の分野に参入して飛躍的発展を遂げ、最近では原告実銃がイタリア政府のみならずアメリカ政府やフランス政府の制式けん銃として採用されるなど、輝かしい歴史と実績を誇っており、今日、原告実銃は、ヨーロッパや北米大陸諸国ばかりでなく、我が国を含め広く世界中に広まっている(ちなみに、原告ベレッタの平成七年における総売上高は一億五三九〇万ドルであり、また、平成八年に我が国に輸入された原告ベレッタ製の散弾銃は一二三二丁であり、同年に我が国に輸入された全散弾銃数の三六・二パーセントを占めている。)。
(2) 原告表示一は、創始者の名前に由来する原告ベレッタの商号の要部であり、一五世紀の創業以来現在に至るまで、原告実銃の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示二は、原告ベレッタを飛躍的に発展させた【中興の祖E】の名前に由来するものであり、遅くとも一九一五年から現在に至るまで、原告実銃(ベレッタM1915量産型等)の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示三は、同人のイニシャル「PB」を横書きして二重の横長楕円で囲んだ独創性のある図形であり、遅くとも一九一九年から現在に至るまで、原告実銃(M1919ポケット・サイズ・ピストル等)の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示四は、三本の矢を二重円で囲んだ独創性のある図形と同人の名前を結合させて一体的にしたものであり、遅くとも一九五八年から現在に至るまで、原告実銃(M70S等)の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示五は、「M92」という名称のけん銃をベースに、イタリア内務省からの要請によってテロ対策用として昭和五七年(一九八二年)に開発・発表された携帯用自動小型火器の名称であり(以下、この実銃を「M93R」という。)、数字と欧文字との組合わせが独創的なものである。
(3) 我が国においては、実銃の所持が規制されており、原告各表示が刻印されている原告実銃が市場において多数流通するようなことはない。しかし、実銃の所持が禁止されている国においては、銃砲愛好者は、実銃に代えて模擬弾を発射できる玩具銃を所持するほかなく、また、実銃所持の規制が緩やかな国においても、実銃使用は容易に許されないから、銃砲愛好者は、日常的には玩具銃を購入してその発射で代替させている。玩具銃は、青壮年向けに、決して安価とは言えない価格で販売されており、これらの需要者は、実銃自体に関心を寄せ、当該実銃メーカーの製造する実銃の性能の優秀性、当該実銃メーカーの信用性を化体したものとして、玩具銃を購入するものであって、玩具銃関係雑誌に実銃に関する記事が多数掲載されていることなどに照らしても、実銃と玩具銃の関心層及び需要者層は、重複・共通するものといえる。
(4) 前記の原告ベレッタの実銃製造販売における輝かしい歴史と実績、原告各表示の使用の継続性、原告各表示自体の独創性に加え、我が国において、原告実銃が種々の報道や玩具銃関係の各雑誌(その主要なものの発行部数は、合計で毎月三〇万部を超える。)の記事等によって広く紹介されたり、小説や映画(「007」シリーズ等)などで取り上げられた結果、原告各表示は、いずれも遅くとも昭和五七年(一九八二年)ころまでには、原告ベレッタの商品であることを表示するものとして、日本国内の実銃需要者及び玩具銃愛好者の間において広く認識されているものとなって、現在に至っている。最近においても、原告各表示を題号に含めたビデオ映画が製作・販売されたり、原告実銃を紹介するためにのみ独立の文庫本が刊行されていることなどは、その証左である。
(5) 被告らは、我が国において、実銃の取引、所持、使用が原則として禁止されており、その市場が存在しないことを理由に、実銃に付された表示が商品等表示として周知性を具備し得るものではないと主張するが、ある表示がある者の商品等表示として周知であることを認定するためには、我が国においてその商品が実際に販売され、あるいは多数販売されていることを要するものではない。
(二) 被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することは、「商品等表示」としての「使用」に当たる。
被告らは、被告商品に被告各表示を付すのは、そのモデルの対象となった実銃の種類品質を示しているにすぎない旨を主張する。しかし、原告実銃において、原告各表示は、いずれも原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されている。そして、被告商品は、プラモデルやミニチュアカーとは異なり、原告実銃を実物大でそのまま模したものであり、被告は、原告各表示と同一の表示を、原告実銃に付された原告各表示と同一の位置、同一の態様で被告商品に付しているのであって、単に説明的に記載しているのではない。このような場合にまで、被告商品に被告各表示を付すことが、商品等表示としての使用に当たらないということはできない。
玩具の商品分野においては、実物を模した玩具を製造・販売するに当たって、実物の形態やそれに付された表示の使用について、実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立しており(昭和四一年には、模型メーカーである田宮模型が、自動車メーカーである本田技研から許諾を得て、その自動車の模型を製造・販売していた。)、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付すことが、商品等表示としての使用に当たることは明らかである。
(三) 被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものである。
不正競争防止法二条一項一号所定の「混同」とは、取引者、需要者をして、商品の出所が同一であると誤信させること(いわゆる狭義の混同)のみならず、ある商品等表示と同一又は類似の表示が商品に付された結果、その商品が当該商品等表示の主体と組織上、営業上関連のある者の業務に係る商品であると誤認させること(いわゆる広義の混同)をも含むものである。
前記のとおり、実銃と玩具銃の関心層及び需要者層は、重複・共通しており、実銃に対して最も密接な関連性を有する商品は、玩具銃といえる。そして、原告ベレッタは、実銃のみならず、衣服類、くつ類、かばん類、帽子、ナイフ、ライター、装飾品等にまで商品分野を拡大し、これらの商品を自ら販売し、又は他社にライセンスを付与して販売している(なお、原告ベレッタの平成一〇年における実銃以外の商品の売上高は、九〇億一一〇〇万リラである。)。玩具銃についても、昭和六〇年(一九八五年)から昭和六二年(一九八七年)までイタリア企業に、昭和六一年(一九八六年)から平成三年(一九九一年)までアメリカ企業にそれぞれライセンスを付与して製造・販売させ、最近では、原告ウエスタンアームスと共同して世界的なライセンス活動を開始している。平成五年(一九九三年)及び平成六年(一九九四年)には、実銃から稼働機構を除去した模型銃を製造し、日本で販売したこともある。
このような事情の下においては、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付した場合には、需要者は、原告らの許諾を得て右表示が付されているものと認識し、その結果、被告商品が、原告らと組織上、営業上関連のある者の業務に係る商品であるとの誤認を、需要者に生じさせることは明らかである。
実銃は、我が国において、狩猟用のものを除き店頭販売されることはなく、また、通常、玩具銃と並べて販売されることもないが、それらの事実は、混同の認定の妨げとなるものではない。
(四) よって、平成二年一二月ころ以降、被告商品に被告表示二及び五を、そのパッケージ等に被告各表示をそれぞれ付す行為、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当する。
(被告らの主張)
(一) ある者の商品等表示が広く認識されるためには、当該表示が付された商品が取引市場に普及し、営業活動が地域に実在することが前提となり、当該表示を付した商品がなく、あるいは容易に手に入らず、その商品についての営業活動も行われていない地域においては、間接的な媒体によって当該表示が周知となることは相当困難である。我が国では、実銃の取引、所持、使用が一部の例外を除いて禁じられており、その市場及び需要者層は存在しない。そして、原告ベレッタは、我が国において原告実銃につき何ら営業活動及び宣伝活動をしたことがなく、我が国で原告実銃ないしこれに付されている表示を目にすることができた機会としては、原告実銃の紹介記事の掲載された外国の出版物やカタログが日本に持ち込まれてこれを見るか、あるいは、外国で原告実銃の紹介文献に接触した人によって日本国内で出版された原告実銃を紹介した出版物を見るといった、極めて限られた例があるにすぎない。これらの点に、欧文字と数字を組み合せた表示には何ら独創性がないこと、小説や映画の中でたまたま原告ベレッタの名称や原告実銃が使用されたとしても、それによってその表示が周知な商品等表示となるものではないこと、平成九年に至るまで、おもちゃ等を指定商品とする「Beretta」の文字からなる登録商標が原告ベレッタと無関係に存在し、また、銃砲等、被服等、装身具等、電気機械器具等を指定商品として、「BERETTA」、「ベレッタ」及びこれに類似する商標につき、原告ベレッタ以外の者が商標登録を受けた事例も多数あること等をも併せ考えれば、原告各表示が原告ベレッタの商品等表示として周知性を具備しているとは到底いえない。
仮に原告各表示が原告ベレッタの商品等表示として周知となった時期があったとしても、我が国においては、十数社に及ぶ多数の玩具銃メーカーが古くから原告各表示と共に自社の名称を併せて付した玩具銃を製造・販売してきたことにより稀釈化され、原告各表示は、玩具銃の需要者の間で、特定の商品の出所を表示するものではなくなったというべきである。
(二) 被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することは、自他商品の識別力を持つ態様で用いるものではなく、「商品等表示」としての「使用」に当たらない。
玩具銃(エアーソフトガン、モデルガン)は、性質上、実銃と同一の外形、表示を有することが必要な商品である。玩具銃が実銃と同一の表示を有することがあっても、それはモデルとされた実銃の種類品質を示しているにすぎず、玩具銃の出所表示の機能を有する商品等表示としての使用には当たらない。
原告実銃をモデルとした玩具銃を製造・販売する業者は、いずれもその商品の本体又はパッケージ等に「BERETTA」等の表示と併せて、「マルゼン」や「MARUZEN」など自らの名称を表す表示を必ず付している。そして、玩具銃の需要者は、「BERETTA」等の表示に基づいて玩具銃を選択・購入するのではなく、玩具銃メーカー名毎に玩具銃の性能・威力・品質についての評価をして、これを選択・購入している。このように、玩具銃の分野においては、玩具銃メーカー名の表示こそが、自他商品識別力を有する商標として機能しているものであって、「BERETTA」等の表示は、被告らの製品と他社の製品とを識別する表示としての機能を有しているわけではない。原告ウエスタンアームス自身、原告ベレッタからその各種商品等表示の使用許諾を得たといいながら、自らの商品について、従来どおり「ウエスタンアームス」やその略号である「WA」等の表示を併せて付しており、これが原告ウエスタンアームスの製造・販売に係る玩具銃の自他商品識別表示となっている。玩具銃のユーザーも、玩具銃に付されている「BERETTA」等の表示が原告ベレッタの商品を表示するものとは考えていない。これは、戦後、原告実銃その他の各種実銃をモデルとしたモデルガン、エアーソフトガンが国内に製造・販売されて、既に三〇年以上の実績を積み重ねて、取引者・需要者間に定着した商慣行となっている事実である。
原告らは、玩具の商品分野においては、実物を模した玩具を製造・販売する際、実物の形態やそれに付された表示の使用について、実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立している旨を主張するが、実物メーカーが玩具についての意匠権や商標権を有していない場合にもその許諾を得るような慣行はなく(逆に、玩具銃業界においては、実銃メーカーの許諾を得ることなく実銃を模した玩具銃を製造・販売するのが慣行であった。)、また、我が国の自動車メーカーが模型メーカーに許諾をした例があったとしても、それは我が国で認められていない「物についての商品化権(パブリシティ権)」の許諾契約であり、模型メーカー側も自動車メーカーから当該自動車に関する情報を入手することを欲して右契約をしたものであって、このような例をもって、直ちに被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが商品等表示としての使用に当たるということはできない。
(三) 被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものではない。
被告商品は、我が国において流通せず、所持することができない原告実銃をモデルとした玩具銃であるが、原告ベレッタは、玩具銃を製造・販売しておらず、他方、我が国においては、十数社に及ぶ多数の玩具銃メーカーによって、原告実銃をモデルとしてその形状を模し、それに付されている表示をも付した玩具銃を製造・販売することが、二〇年以上も前から広く行われてきた。そして、被告は、原告実銃を模した玩具銃の製造・販売に当たり、その本体やパッケージ等に必ず「マルゼン」や「MARUZEN」という自らの名称を付しており、玩具銃の需要者も、玩具銃に付されている「BERETTA」等の表示が原告ベレッタの商品を表示するものとは考えていない。
原告ベレッタの業務内容に実銃以外の製品の製造販売又はライセンス付与が加わったとしても、それは比較的最近のことであり、その数量も少ない。原告ベレッタの最近の商品カタログには、射撃の際に着用するウェア、銃を収容するケース、ベルト等の商品も掲載されているが、これらは、一般的な衣服、雑貨として販売されているものではない。原告ベレッタが日本で販売した模型銃についても、発射機構は取り除いてあるものの、実銃の部材そのものを使用し、価格も二〇万円以上するものであって、玩具銃(エアーソフトガン)とは別異の商品として取引者、需要者間に取引されており、その販売数量も極めてわずかである。
したがって、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示が付されているからといって、その玩具銃が原告ベレッタ若しくはその子会社又はそのライセンシーの製造したものと誤認されるおそれはなく、また、そのように誤認された事実もなく、いわゆる広義の混同を生じさせるものではない。
(四) よって、平成二年一二月ころ以降、被告商品に被告表示二及び五を、そのパッケージ等に被告各表示をそれぞれ付す行為、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当しない。
2 争点2(原告ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否)について
(原告ウエスタンアームスの主張)
(一) 不正競争防止法二条一項一号所定の「他人」には、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれる(最高裁第三小法廷昭和五九年五月二九日判決・民集三八巻七号九二〇頁参照)。
原告ウエスタンアームスは、平成九年六月、原告ベレッタとの間で、原告ベレッタの各種商品等表示を玩具銃に付して使用することなどに関して、全世界的な独占使用権を取得する旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。そして、本件ライセンス契約が発効した同月二〇日以降、右契約に基づき、玩具銃の分野で、全世界において原告ベレッタの各種商品等表示を使用し、かつ、第三者にサブライセンスを付与する権限を有し、原告ベレッタと共に当該商品等表示の商品化事業を共同で遂行する立場にある。したがって、原告ウエスタンアームスは、原告ベレッタと共に、右商品等表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束した、使用許諾者及び許諾を受けた使用権者のグループを形成している。
(二) 原告各表示は、原告ベレッタと原告ウエスタンアームスとで構成される原告らグループの商品であることを表示する標章に当たる。そして、原告各表示が遅くとも昭和五七年(一九八二年)ころまでには原告らグループの商品等表示として需要者の間に広く認識されているものとなっていること、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たり、原告らグループの商品と混同を生じさせるものであることは、争点1に関する原告ベレッタの主張と同様である。
(三) したがって、争点1に関する原告ベレッタの主張(四)に記載のとおり、本件ライセンス契約発効の日である平成九年六月二〇日以降、被告各表示を被告商品に付する等の行為は、原告らグループの商品等表示と同一の商品等表示を使用するものとして、原告ウエスタンアームスとの関係においても、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に当たるというべきである。
(被告らの主張)
原告ウエスタンアームスは、原告ベレッタと競業関係にあるコルト社やストレイヤー・ヴォルト社等の実銃メーカーから、そのマークの使用についてのライセンスを受け、これを玩具銃に使用しており、原告ベレッタと共に当該商品等表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているという関係にあるとはいえない。
3 争点3(原告らの差止請求権の有無)について
(原告らの主張)
被告らは、現在、被告商品に被告表示二及び五を付してこれを販売し、そのパッケージ等に被告各表示を付してこれらを譲渡し、引き渡して、不正競争行為を行っている。そして、さらに今後、右行為以外にも、被告玩具銃及びそのパッケージ等について被告各表示を付し、これらを譲渡し、引き渡して、右と同様の不正競争行為を行うおそれがある。
原告らは、被告らの右不正競争行為により、原告各表示の持つ出所識別機能、品質保証機能を害され、原告各表示についての商品化事業の展開が妨げられるものであって、営業上の利益を現に侵害され、又は将来侵害されるおそれがある。
よって、原告らは、不正競争防止法三条一項に基づき、被告らに対し、玩具銃及びパッケージ等について被告各表示を付し、被告各表示を付した玩具銃及びパッケージ等を譲渡し、引き渡すことの差止めを求めるとともに、同法二項に基づき、被告各表示を付した玩具銃及びパッケージ等並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版の廃棄を求める。
(被告らの主張)
被告らは、現在、被告商品を販売していない(ただし、被告丸前商店に残存する在庫品については、注文があれば販売していた。)。また、かつて、被告商品に「MOD.M93R」という表示を付したことはあるが、被告表示五を付したことはなく、そのパッケージ等に被告表示二ないし四を付したこともない。
我が国において、原告実銃の需要者層がないにもかかわらず、「BERETTA」等の表示が玩具銃の需要者に知られるようになったのは、原告ベレッタの営業活動とは無関係に、被告らを含めた玩具銃製造業者が原告実銃をモデルに玩具銃として開発し、国内に普及せしめたからにほかならず、原告ベレッタには、これによって侵害され得る営業上の利益は存在しない。
4 争点4(原告らの損害賠償請求権の有無及び原告らが請求し得る損害額)について
(原告らの主張)
(一) 被告らは、故意又は重大な過失により、共同して、平成二年一二月ころ以降、被告商品に被告表示二及び五を、そのパッケージ等に被告各表示をそれぞれ付し、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡して、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為を行った。
したがって、被告らは、不正競争防止法四条及び民法七一九条に基づき、原告らに対し、連帯(不真正連帯)して、右各行為によって生じた損害を賠償する義務を負う。
(二) 被告らは、被告商品(小売価格九八〇〇円)を、平成二年一二月ころから本件ライセンス契約発効の日である平成九年六月二〇日まで一三万丁、同日以降二万丁、販売した。その卸売価額は小売価格の六割であり、卸売価額の合計額は、平成二年一二月ころから平成九年六月二〇日までが七億六四四〇万円(九八〇〇円×〇・六×一三万)、同日以降が一億一七六〇万円(九八〇〇円×〇・六×二万)である。
(三) 原告ベレッタは、玩具銃について原告各表示の使用料を受けとっているところ、その金額は、玩具銃の卸売価額の六パーセントであるから、被告の不正競争行為に対し通常受けるべき金銭の額は、五二九二万円(被告商品の卸売価額の総額八億八二〇〇万円×〇・〇六)である。したがって、原告ベレッタは、不正競争防止法五条二項に基づき、同額を自己が受けた損害の額としてその賠償を請求する。
(四) 被告らの本件ライセンス契約発効の日である平成九年六月二〇日以降の被告商品の卸売価額の総額は、一億一七六〇万円であるところ、被告の純利益(税引前利益)率は一五パーセントであるから、被告らは、同日以降、一七六四万円(一億一七六〇万円×〇・一五)を利得したものと推定され、このうち被告が被告各表示の使用によって受けた利益は、その半分の八八二万円であると考えられる。したがって、不正競争防止法五条一項により、原告ウエスタンアームスが受けた損害の額は、八八二万円と推定される。
(五) よって、原告ベレッタは、五二九二万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告ウエスタンアームスは、八八二万円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ被告ら各自に対して求める。
5 争点5(権利濫用の成否)について
(被告らの主張)
仮に「BERETTA」等の表示が、我が国の玩具銃の需要者取引者間に周知になっているとすれば、これは、二〇年以上にもわたって原告実銃の形態やそれに付された表示を模した玩具銃を製造・販売した我が国の玩具銃メーカーの営業努力によるものである。原告ベレッタは、我が国の玩具銃メーカーが原告実銃の形態やそれに付された表示を使用していた状態を、平成八年三月ないし四月ころに警告するまで長年にわたって放置したものであり、自ら「BERETTA」等の表示についての権利の保全に何ら努力することなく、玩具銃メーカーの営業努力により当該表示が玩具銃の需要者、取引者にある程度知られるようになってから、その玩具銃メーカーに対して権利を行使しようとするものであって、到底容認し得るものではない。原告ベレッタの本訴請求は、権利の濫用に当たるか、あるいは、長年の権利不行使によりその権利が失効するに至っているものというべきである。
また、原告ウエスタンアームスは、我が国の玩具銃の製造販売業者で組織する日本遊戯銃協同組合の組合員で、同原告の代表者が平成七年一〇月から平成九年一〇月まで同組合の代表者理事長の職にあったものであるが、同組合宛てに原告ベレッタからその表示等の使用について許諾についての打診があった際、他の玩具銃メーカーを出し抜いて原告ベレッタから許諾を得たものであり、それまでは他の玩具銃メーカーと同様、原告ベレッタの許諾を得ることなくその表示を玩具銃に付していたものである。原告ウエスタンアームスは、玩具銃の製造販売業者が実銃の製造業者からその表示等の使用の許諾を受けることなく、長年にわたり特段の争いもなく実銃をモデルとした玩具銃の製造・販売を続けてきた業界の実情を熟知しながら、原告ベレッタからのクレームに乗じて他の玩具銃メーカーによる使用を差し止めるために原告ベレッタから許諾を受けたものであって、原告ウエスタンアームスの本訴請求は、クリーンハンドの原則に反するばかりでなく、不正競争防止の名の下に公正な競業秩序を破壊し、自らの利益の独占を図ろうとするものであり、権利の濫用に当たる。
(原告らの主張)
原告ウエスタンアームスは、実際に玩具銃業界において実銃の形態やそれに付された表示の使用についてのライセンス契約が締結されるのが慣例になっているという認識の下、これまでの玩具銃業界の悪弊を断つべく、原告ベレッタと交渉を重ねた末、本件ライセンス契約を締結したものであり、また、日本遊戯銃協同組合においても、原告代表者が玩具銃業界全体として対応すべき旨を主張したところ、もっぱら被告ら代表者による反対によって業界としての結束をみず、玩具銃メーカー各社が個別的に原告ベレッタと折衝するようになったものであり、他の玩具銃メーカーを出し抜いたものではない。被告らは、原告ベレッタに対し、原告ベレッタの表示等の無断使用の事実を認め、今後無断で使用しない旨を通知しながら、原告ベレッタの要求に応ずることなく、旧態依然として原告ベレッタの表示等の無断使用を継続したものである。このように、何らの努力も対価の支払もなくして無許諾で他人の信用を利用する者が、誠実な努力と正当な対価も支払い、様々な負担の上で知的財産権の保護保全を図ろうとしている原告ウエスタンアームスを非難する資格はなく、原告らの本訴請求は権利濫用に当たらない。
第三当裁判所の判断
一 争点1(原告ベレッタとの関係における不正競争の成否)について
1 甲第一号証、第二号証の一及び二、第三号証、第四号証、第五号証の一及び二、第八号証、第九号証、第一三号証ないし第二六号証、第三一号証、第三四号証の一ないし八、第三五号証の一及び二、乙第一号証ないし第六号証の各一ないし三、第七号証の一ないし五、第八号証の一ないし六、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし三、第一一号証、第一二号証、第一三号証ないし第二一号証の各一ないし三、検甲第一号証及び第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 我が国においては、実銃の所持が一部の例外を除いて禁止されており、M93Rは、一般に流通することがなく、所持することもできないものである。
(二) モデルガンは、実銃の外観に似せて作られた、実銃としての機能を有しない玩具であり、我が国では、昭和三〇年代後半ころから販売が開始された。当初はほとんどが金属製であったが、次第にプラスチック製のものも製造・販売されるようになり、さらには、単に実銃の外観を模しただけでなく、空気やガスの圧力によって実際にプラスチック製の弾丸を発射できる機能が付加されたもの(従前の外観を模しただけのモデルガンと区別する意味で、「エアーソフトガン」、「エアースポーツガン」などと称されている。)なども製造・販売されるようになった。我が国においては、原告ウエスタンアームス及び被告らを始め、イマイ、MGC、ガレージガンワークス、グンゼ産業、KSC、啓平社、コクサイ、サンエイ、サン・プロジェクト、鈴木製作所、タニオ・コバ、タイトー、タナカ、デジコン、東京CMC、東京マルイ、ハドソン産業、ファルコントーイ、フジミ模型、マルシン工業などの多数の玩具銃メーカーが存在し、各玩具銃メーカーが各実銃メーカーの製造・販売に係る各種実銃をモデルとして各種各様のモデルガンをそれぞれ製造・販売している。
(三) これらのモデルガンは、いずれも現実に存在する実銃を基に、これを実物大で、その形態や実銃本体に刻印された表示までも忠実に再現したものである。ただし、同じ実銃をモデルにしたものであっても、材質や重量、リアルさの程度、射弾性能(エアソフトガンの場合)、玩具としての対象年齢等において種々の違いがあり、それに応じて販売価格も様々である。最近では、射弾動作のメカニズムまで含めて、そのリアルさが競われている。
モデルガンの商品名については、ほとんどの場合、商品名の全部又は一部に基になった実銃の名称やその製造者名が用いられており、それによってモデルとされた実銃が特定されている。そのため、メーカーは異なるが商品名は同じというものも、数多く存在する。
モデルガンは、実銃の外観を忠実に再現するという性質上、その本体に当該モデルガンを製造したメーカーを示す表示が付されることは少ない。しかし、モデルガン本体にメーカーを示す表示が併せて付されているものもあり、また、モデルガン本体にメーカーを示す表示がなくても、そのパッケージ等には、必ず基になった実銃を特定する表示とともに当該モデルガンを製造したメーカーを示す表示が付されている。
(四) 月刊GUN、月刊コンバットマガジン、月刊アームズマガジンなどの銃関係の専門雑誌には、原告実銃を始めとする実銃や射撃に関する記事、写真のほか、モデルガンの紹介記事や宣伝広告が当該モデルガンの写真と共に掲載されているが、モデルガンに関する記事や広告においては、まずそのモデルガンを製造したメーカー名のほか、それがどの実銃をモデルにしたものかがモデルガンの商品名や当該実銃自体の名称をもって明確に示された上、当該実銃の外観や質感、射弾動作メカニズムがいかにリアルに再現されているかという点や、装弾数、命中精度等の射弾性能の点が主に記述されている。我が国で製造販売されているモデルガンについての情報を一覧できるような形で編集したカタログも出版されているが、これにも当該モデルガンを製造したメーカー名、商品名等が掲載されている。
(五) 原告実銃をモデルとしてその外観を実物大で模した玩具銃についても、原告ウエスタンアームスを始め、多数の玩具銃メーカーによってかなり以前から製造販売されている。これらのモデルガンの多くは、他のモデルガンと同様、基になった原告実銃の形態や実銃本体に刻印された表示までもが忠実に再現されており、それ自体日本製でありながら、原告実銃と同様に「MADE IN ITALY」という表示もされている。
(六) 被告商品は、原告実銃であるM93Rの外観を模したガス式エアガンであり、その商品名は、基となった実銃の名称及びその製造者たる原告ベレッタの名称に由来する。そして、ガス式エアガンとしての機能上必要な部分を除き、M93Rとほぼ同一の形状、色合いを有するとともに、M93Rに付されている表示と同一の表示が、M93Rにおけるのと同様の位置に付されており、スライド側面の「PIETRO BERETTA」(原告表示二)、「P.B.- MOD.93R」、「GARDONE V.T.CAL.9Parabellum」という表示や、フレーム側面に付された製造番号と思われるアルファベットと数字からなる七桁の番号までもが、忠実に再現されている。もっとも、スライド側面にはM93Rと異なり「MADE IN JAPAN」の表示があり、フレーム側面には製造者を示す「MARUZEN」の表示もされている。
被告商品のパッケージ及び使用説明書には、被告商品の外観を示す写真や図面、その商品名を示す「Beretta」及び「M93R」(被告表示一及び五)の表示が随所に付されているが、それとともに、被告商品がガス式エアガンであることやその対象年齢が一八歳以上であること、ガス式エアガンとしての機能・性能、使用方法の説明、製造者を示す「MARUZEN」ないし「マルゼン」の表示等も、併せて記載されている。
なお、被告商品に被告表示五が、そのパッケージ等に被告表示二ないし四がそれぞれ付されていたことを認めるに足りる証拠はない。
(七) 原告ウエスタンアームスは、被告商品と同様、原告実銃をモデルとしてその外観を実物大で模し、原告実銃の形態や実銃本体に刻印された表示までもが忠実に再現された玩具銃を製造販売していたところ、平成九年六月、原告ベレッタとの間で、原告ウエスタンアームがモデルガンの分野において原告ベレッタの商号及び商標等を独占的に使用できる旨の契約を締結した。そして、それ以降、自らの製造販売に係る原告実銃の外観を模した玩具銃を「パーフェクトバージョン」などと称し、「ピエトロ・ベレッタとの正式契約を得て生まれ変わったM92FS」、「完全進化パーフェクト・ベレッタ誕生!」、「本物の証、P.BERETTAの刻印が冴える!」、「『世界のベレッタ』とのジョイントが実現したリアルな刻印」などと広告宣伝して、これを製造販売しているが、そのパッケージ等においては、従前と同様、それが玩具銃であることやその対象年齢、玩具銃としての機能・性能、使用方法の説明、製造者を示す「WESTERN ARMS」や「MADE IN JAPAN」の表示等も、併せて記載されている。
(八) 原告ベレッタは、これまで玩具銃を製造・販売したことはなく、現在も製造・販売していない。もっとも、原告ベレッタは、平成五年及び平成六年に、実銃から発砲機能、稼働機構を除去した模型銃を製造し、我が国において輸入販売したことがあるが、右模型銃は、あくまでも観賞用に商品化されたものであり、その価格は約三〇万円に上り、実銃そのものを利用するというその製造過程に照らしても、実銃の外観に似せて作られた玩具銃とは性質を異にするものであって、その輸入数量も平成五年五一丁、平成六年八四丁と僅少である。
また、原告ベレッタは、実銃のほか、ガンケース、ナイフ、狩猟用のコートやベスト、シャツ及び帽子、射撃競技用のベストや靴、色メガネ、シャツ、帽子及びバッグ、並びに実銃のケア用品等の商品につき、「Beretta」等の表示を付してこれを販売しており、これらの商品は、我が国にも輸入されているが、いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーの類であり、主に実銃所持者を販売対象とするものであって、その販売数量も多くない。
2(一) 右認定の事実を前提に、まず、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たるかどうかについて検討する。
(二) 不正競争防止法二条一項一号は、「他人の商品等表示・・・・として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競争と規定しているが、同号の趣旨は、人の業務に係る商品の表示について、同表示の持つ標識としての機能、すなわち、商品の出所を表示し、自他商品を識別し、その品質を保証する機能及びその顧客吸引力を保護し、もって事業者間の公正な競争を確保するところにある。そうであればこそ、同号は、他人の周知の商品等表示と同一若しくは類似の「商品等表示」を使用する行為を不正競争行為としている。すなわち、同号の不正競争行為というためには、単に他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。けだし、そのような態様で用いられていない表示によっては、周知商品等表示の出所表示機能、自他商品識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害することにはならないからである。このことは、同法一一条一項一号において、商品の普通名称又は同一若しくは類似の商品について慣用されている商品等表示を普通に用いられる方法で使用する行為については、同法二条一項一号所定の不正競争行為として同法の規定を適用することが除外されていることからも、明らかというべきである。
(三) 一般に、模型は、一定の対象物(例えば、自動車、航空機、船舶、建築物、兵器等)について、本物の備えている本質的機能(例えば、自動車、航空機、船舶等にあっては運送能力、建築物にあっては居住可能性、兵器にあっては殺傷能力)を有さず、単に、その外観を縮尺ないし原寸で模すものである。模型は、本物の外観を忠実に模すところに有意性が存するものであり、外観上本物にどれだけ近づくことができたかによって、模型自体やその製作者の技術に対する評価が下されることから、模型の製作に当たっては、本物の形状のみならず、色合いや質感、それに付されている模様やマークに至るまで、精巧かつ緻密に再現することが行われている(この点は、図鑑や写真集の場合と同様である。)。また、同一の対象物について、複数の異なる製作者により、いくつかの模型が製作されることも、当然に生じ得る。
このような模型は、古代における墳墓の副葬品に既にその原形が見られるように、古くから人類によって製作されてきたものであり、模型の有する右のような特徴は、長年にわたって広く社会的に認識されてきた。また、本物の備える機能を有さず、外観のみを忠実に模したものであるという模型の本質的特徴から、一般に、模型の需要者は本物のそれとは異なるものであり、模型の製造販売の主体も、本物のそれとは異なるのが通常である。
そして、模型の形状や模型に付された表示が本物のそれと同一であったとしても、模型の当該形状や表示は、模型としての性質上必然的に備えるべきものであって、これが商品としての模型自体の出所を表示するものでないことは、広く社会的に承認されているものである。右の点は、模型が、航空機や建築物のプラモデルやミニチュアカーのように縮尺されたものであるか、あるいはモデルガンのように原寸大のものであるかによって、何ら異なるものではない。
(四) 本件においては、前記認定の事実関係によれば、被告商品は、我が国においては、市場において流通することがなく、所持することも一般に禁じられている実銃であるM93Rを対象に、その外観を忠実に再現したモデルガンであり、実銃の備える本質的機能である殺傷能力を有するものではなく、実銃とは別個の市場において、あくまで実銃とは区別された模造品として取引されているものであって、その取引者・需要者は、原告実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形状・表示を有する多数のモデルガンの中から、その本体やパッケージ等に付された当該モデルガンの製造者を示す表示等によって各商品を識別し、そのモデルガンとしての性能や品質について評価した上で、これを選択し、購入しているものと認められる。したがって、原告実銃において原告各表示が原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されており、また、被告商品に原告実銃に付されている原告各表示と同一ないし類似の被告各表示が付されているとしても、被告各表示は、いずれも出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。
また、前記認定の事実関係によれば、被告商品のパッケージ等に被告商品の外観を示す写真や図面、その商品名を示す表示が付されていても、それは、当該モデルガンがどの実銃を対象とし、どのような外観を有するのかという当該モデルガンの内容を説明するために使用されているにすぎず、右パッケージ等に表示された被告各表示は、いずれも出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。
(五) 原告らは、昭和四一年には田宮模型が本田技研から許諾を得てその自動車の模型を製造・販売していたことを例に挙げ、玩具の商品分野において、実物を模した玩具を製造・販売する際、実物の形態やそれに付された表示の使用について、実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立していた旨を主張し、その証拠として甲第二七号証ないし第三〇号証を提出する。
しかし、甲第三〇号証によれば、田宮模型がグッドイヤー社製のタイヤを装着したF1カーを模型化するに当たり、グッドイヤーの名前の入ったミニチュアタイヤを装着することについて、初めて事前にグッドイヤー社に対してその承諾を求めたことがうかがえるが、他方、同号証には、田宮模型の担当者が本田技研に対してF1カーの模型化のための協力を依頼した結果、車の写真を撮影したり、本田技研の技術者から説明を受けるなどの取材が行われた旨の記載や、田宮模型の担当者がポルシェに対しそのスポーツカーの模型化のための取材を申し込んだ際にも、その車の製造工程を写真に収めるなどしたものの、寸法等のデータを得ることができなかったので、ポルシェのスポーツカーを数千万円で購入し、これを分解して必要なデータを収集した旨なども記載されているものであり、これらの記載に照らせば、むしろ、模型メーカーは実物メーカーに対し、模型化に必要な資料収集についての協力を求めていたにすぎないものと認められ、同号証は、原告ら主張のような慣行があったことを認めるに足りるものではない。
また、甲第二七号証は、玩具とは全く関係のない分野で使われている有名ブランドを玩具のブランドとして使うことについての記載であって、模型に実物の形態やそれに付された表示を使用する場合を想定したものではないし、甲第二八号証は、これに記載された当事者間の一つの合意を示したにすぎず、甲第二九号証も、商品化許諾基本契約についての契約書ひな形にすぎない。前記認定のとおり、原告ウエスタンアームス自身、原告ベレッタとの間でその商号及び商標等のモデルガンの分野における独占的使用契約を締結する以前から、被告商品と同様、原告実銃の形態やそれに付された表示を再現したモデルガンを製造販売していたことなどを併せみれば、いずれも原告ら主張のような慣行が確立していたことを認めるに足りるものではない。
したがって、甲第二七号証ないし第三〇号証によっても、原告らの主張するような慣行が確立していると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(六) 以上のとおり、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たるということはできない。
3 前記のとおり、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することは、「商品等表示」としての「使用」に当たるとはいえず、不正競争行為行為に該当しないと解されるが、加えて、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものでもなく、この点からも、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為には、該当しない。
すなわち、前記認定の事実関係、殊に、被告商品が一般に流通することがなく、所持することもできない実銃の外観を再現したモデルガンであり、その基となった実銃とは別個の市場において、あくまで本物と区別された模造品として取引されているものであること、原告ベレッタはこれまで玩具銃を製造・販売したことがないこと、原告ベレッタが我が国において販売した模型銃は、観賞のために実銃から発砲機能、稼働機構を除去した高価なものであり、玩具銃とは性質を異にし、その輸入数量も僅少であること、原告ベレッタが実銃のほかに「Beretta」等の表示を付して販売している商品は、いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーの類で、主に実銃所持者を販売対象とするものであり、その販売数量も多くないことなどの事実関係に加え、およそ実銃メーカーが玩具銃を製造販売し、玩具銃メーカーが実銃を製造販売していることをうかがわせる証拠はないこと、かつて国外の玩具銃業者が原告ベレッタからライセンスを受けて玩具銃を製造販売したことがあったとしても、その玩具銃が我が国において販売されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのようなライセンス生産の事実が我が国において一般に知られていることをうかがわせる証拠もないことなどを併せみれば、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示が付されているからといって、その玩具銃が原告ベレッタ若しくはその子会社又はそのライセンシーの製造に係るものであると誤認されるおそれがあるものとは認められず、したがって、広義の混同を生じさせるものではない。
4 したがって、平成二年一二月ころ以降、被告商品に被告表示二及び五を、そのパッケージ等に被告各表示をそれぞれ付す行為、並びに右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当するということはできない。
二 以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 中吉徹郎)
裁判官 長谷川浩二は、転任のため署名押印できない。 裁判長裁判官 三村量一
<以下省略>